千代田区には、現在、内濠、外濠、神田川、日本橋川といった江戸時代初期に建設され、その後の江戸・東京の発展の礎となった江戸城の濠および都市河川が存在している。これらの水部は、今日では東京都心に潤いを与える水辺・緑地をかたちづくっているとともに、貴重な歴史的・文化的資源である。しかし、水部は場合によっては縁辺部に対して災害リスクを与えるところでもある。本事業は、地図を共通基盤とするデジタル都市アトラスを構築することを通して、都心部における水を中心とした都市環境の成り立ち、及び災害履歴を含む変遷過程を明らかにすると同時に、空間的多様性を重視する中で各々の地区を位置づけ、都市環境インフラとして水を考慮した都心再生のあり方を探るものである。
本事業で対象とする地域は、千代田区を中心とする都心部であり、水部として@内濠、A外濠、B日本橋川、C神田川、が含まれる。これらの水部と併せて、地域の緑地、歴史的・文化的資源、および災害リスク等に関する基礎的資料を共通座標によるデジタル都市アトラスとして集約化させ、災害リスクをふまえた都市環境の再生の在り方について検討を進めるものである。
本事業の背景については、以下の3点に集約される。
(1)千代田区では、都市・地域の全体像を視覚的に把握できるようなまとまった地図資料の刊行が少ない。地域の全体像を総合的に俯瞰できる共通座標によるアトラス(主題図集)が存在すれば、街づくりに対して基本認識の共有、意見交換のための共通基盤として活用できる。
(2)法政大学ではこれまでエコ地域デザイン研究所の活動を通して、さまざまな研究成果を書籍や報告書などとしてまとめてきた。その中には地図として表現された資料も多く、都心部にかかわるものも少なくない。それらの地図資料の集約化を図ることにより、参照を容易にするだけでなく相互比較などによる新たな知見を創出することができる。
(3)デジタルメディアとしてのデジタル都市アトラスは、紙メディアに比べて,縮尺変換、投影変換、相互比較、情報検索など操作性が増し、また、ネットワーク化により情報交換が容易となる。これらの新たな機能は、今後の参加型の街づくりにおいて必要とされる空間表現力の支援につなげることができる。